中国本土で最も平均所得が高いといわれるほど経済発展した深圳ですが、1980年代までは寂れた漁村でした。香港に隣接しているという地の利を生かして、鄧小平によって初の経済特区に指定されてから急速に発展した、意図的に作られた近代都市です。

深圳市の面積は約2000k㎡で東京都とほぼ同じ。形も東西に長く、東京都のようです。そこに3000万人超とも言われる人々が暮らしています。全国から人が集まって出来た深圳は、広東省の海側中心部にありながら、広東語ではなく普通語が話されています。香港は広東語ですので、深圳は、広東語圏にぐるっと囲まれた、普通語都市です。

縮尺を揃えた東京都と深圳市

人口は20代、30代の若い人が中心です。深圳市中心部の居住区は、それぞれが柵で囲われていて、警備員が24時間、門の開け閉めをしています。といっても治安が悪いわけではなく、むしろ日本と同等ともいえる治安の良さを誇ります。スリなどは多少あるものの、女性が真夜中に一人で歩いていても、身の危険を感じることはないでしょう。

前回僕が滞在した場所では、柵で囲われた広大な敷地に、30階建てくらいの高層マンションを100本くらい立てて、その中に小学校を1つ、中学校を1つ、幼稚園を2つ作っていました。そういう巨大マンション群が、数え切れないほどある。それが深圳中心部です。

ショッピングモールと商店街

深圳にも、カルフールやウォルマートといった、大規模スーパーやショッピングモールがあります。それと隣接して、巨大な商店街が広がっています。イオンやダイエーに駆逐されてしまった日本のパパママストアとは違い、深圳の個人商店は膨大な人口に支えられて賑わっています。大きなショッピングモールの周囲を、それ以上に大きな商店街が、無数の個人商店や飲食店を擁して取り囲みます。

深圳のスーパーでは、野菜は量り売りが主流でした。店内に計測用のカウンターがあり、そこに野菜や果物を持っていくと重さを測り、値札シールを貼ってくれます。魚も活魚が多く、小さなスーパーであっても、水槽の中に魚を泳がせています。カルフールでは生薬の量り売りをしていました。さすが漢方(中国医学)発祥の地です。書店でも本草綱目(ほんぞうこうもく)という、中医薬学の根幹となる400年前の本が目立つところに置かれていて、生活に根付いていることをうかがわせます。

緑豊かなガーデンシティ

何もないところに人口的に作られた都市のため、深圳中心部は大きな公園が数多く点在しています。地図でみると、公園の多さに驚かされます。その一つひとつが、管理の行き届いた非常に綺麗な公園です。休日ともなると、たくさんの人が公園に繰り出します。大きな音で伝統音楽を鳴らしながら散歩をする老人、ダンスをする集団、歌っている人、バドミントンをする人など、思い思いに過ごしています。禁止事項の多い日本の公園よりも、市民との距離が近いようです。

中国では、他の人が何をしているかは、誰も気にしません。人に迷惑をかけないようにしようという日本人の発想とは違い、隣の人が何をしていても気にしない、だからみんなが自由に過ごせる。それが中国の文化であるように思います。

日中の公園内では、常にスタッフが掃除をしています。ゴミがあるから掃除をしているというよりは、ゴミがほとんど落ちていない中で、わずかなゴミを探して拾い集めています。

公園外にも、ゴミはほとんど落ちていません。街のいたるところに、リサイクル用とそれ以外に分別されたゴミ箱が設置されているため、ゴミを捨てるのに困ることはありません。ゴミ箱の設置密度は東京以上で、むしろ東京の方が、ゴミを捨てるためにコンビニなどを探す必要のある、ゴミ捨て難民になりがちです。

書店、図書館

深圳市の中心、少年宮駅の近くにある深圳書城中心城と、深圳図書館を訪れました。深圳書城中心城は、深圳でおそらく最大の大きさを誇る書店です。地上2階、地下1階で東西に長い形をしています。ハードウェアの都市だけあって、ハードの本は、質、量ともに、日本より上だろうと感じました。例えば、ハイエンド3D CAD である CATIA や SolidWorks の本の2015年版の翻訳書が、2000円ほどの価格で発行されています。日本では需要がないので出せないし、出しても7000円、8000円といった定価をつけることになるのではないでしょうか。図書館には、さすがに最新の本は見当たらなかったものの、書店から一年遅れくらいの、日本の図書館では考え難い新しさの本が並んでいます。

日本では見られない本として、各種電気製品の修理マニュアル本が売られています。液晶テレビ、エアコンなど、いろいろありますが、圧巻は iPhone の修理本です。日本で iPhone を修理するといったら、割れたタッチパネルを交換する程度のものでしょう。深圳は違います。iPhone を回路図レベルで解説してくれます。

その一方、ソフトウェアは東京より弱い印象です。Ruby on Rails でウェブサービスを作ることの多い僕は、ついつい Rails や Ruby の本を探してしまうのですが、深圳最大の書店に、Learn RUBY the HARD WAY と Metaprogramming Ruby 2 の、2点しか見つかりませんでした。深圳のソフトウェアエンジニアは、Ruby を使わないのでしょうか。Node.js は、5-10点くらいあったように思います。

深圳には、自助図書館なる、本の自動貸出返却機があります。深圳では、日本のようなジュースの自動販売機は見かけませんが、ワインの自動販売機、モバイルバッテリーの自動貸出機など、特色のある機械がありました。

図書館でソフトウェアの本を探したものの、日本のウェブエンジニアが関心を持つような本は無く。探し方が悪いのか。深圳には、WeChat を作っている Tencent などの巨大企業があるので、ソフトウェアエンジニアもそれなりにいるはずなのです。みんなどうしているんだろう。中国のソフトウェアの中心は上海だそうなので、上海の書店や図書館も覗いてみたいです。

日本の図書館では見られない分類として、武器工業がありました。

この図書館は、日本の建築家、磯崎新の手によるものだそうです。蔵書400万冊、利用者席数2500の、巨大な図書館です。

茶館

深圳の居住区には「◯◯茶館」という店がたくさんあります。ただのお茶屋さんではありません。マージャン屋さんです。店の奥は小部屋に分かれていて、人々がマージャンに興じています。疲れると部屋から出てきて、食事をとったり、お茶を飲んだりします。日本と同様、中国も基本的にマージャンはお金を賭けるものですが、勝った人が食事を奢るなどして、皆が楽しんでいるようです。

昔の茶館は、お茶を飲む店だったようです。今でも、お茶だけを飲むことができます。一杯のお茶を注文することもできますが、「一道」で注文すると、無限にお茶が飲めます。ポットのお茶が減ってくると注ぎ足してくれます。

トイレ

深圳の街中では、洋式よりも、しゃがむタイプ(便宜上ここでは和式と呼ぶ)が圧倒的に多く、数少ない洋式にもウォシュレットはついていません。和式はほとんどが水洗トイレですが、中国のトイレットペーパーが水に溶けにくいのと、紙を流す前提の設計になっていないため、紙は備え付けのゴミ箱に捨てます。

紙がないことも多いため、ティッシュペーパーや、芯を抜いたトイレットペーパーの持ち歩きは必須です。中国にもテッシュペーパーは売っていますが、日本人が期待するサイズのものがないため、日本から多めに持っていくほうがいいでしょう。ティッシュを持ち歩かないと、深圳では生きていけません。

第4回深圳観察会で行った工場の一つには、個室トイレのドアがありませんでした。ドアのないトイレに出会ったのは、ここが最初で最後です。

雨に弱い街

深圳では土砂降りの雨が多いようなのですが、都市の排水能力が不十分で、雨のあとは街のいたるところに水溜りができます。人工的に作られたため中心部はとてもきれいな街並みなので、この点は残念です。僕はずっと CROCS で過ごしていました。僕は日本でも、ヨソ行きのときと車を運転するとき以外は CROCS を愛用しています。

電動自転車、電動バイク

深圳中心部では、人力の自転車をほとんどみかけません。ほとんど電動自転車です。日本の電動アシストとは異なり、電気の力でスーっと走ります。こぐ必要がありません。路駐や駐輪場の自転車を見ると、人力自転車も数の上ではそこそこありますが、街中を走っている自転車は圧倒的に電動の方が多いです。一方、中心部から離れて郊外に行くと、足漕ぎ自転車も多くなります。

車の運転

深圳は、車がとても多い。めっちゃ多い。とはいえ、深圳観察会に参加していたバンコク在住の @kaolynn さんが言うには、バンコクのカオスよりはマシとのことです。

車の運転は、日本と比べると荒いです。急な車線変更は当たり前です。隙間があれば突っ込みます。クラクションをバンバン鳴らします。朝の通勤時間帯だと、5秒に1回はクラクションを聞きます。誇張ではありません。でも、不思議と事故は少なく、安全運転です。計15日の滞在で、事故を見たのは一度だけでした。クラクションを鳴らすことで、積極的に注意喚起をして、事故を防いでいるようです。運転思想が根本から違うのですね。