Kickstarter がベネフィット・コーポレーション(Benefit Corporation)になりました。Benefit Corporation は、日本語で公益法人と訳すこともできますが、概念が違うため、ベネフィット・コーポレーションと呼ぶほうが良いでしょう。

これはアメリカの州法で制定されている法人形態で、2010年にメリーランド州で制定されたのを皮切りに、2015年9月現在では31の州で制定済み、5つの州で制定作業中です。アメリカでは、今、ベネフィットコーポレーションを設立する動きが増えています。

アメリカの営利企業は、株主の利益を最大化することを目的としています。その結果、金銭的な関わりのないステークホルダーに対する貢献がしにくくなっています。公益を果たそうとすれば、どうしても株主利益を毀損しがちになります。従来の CSR は、企業市民として、利益を追求する以前に、社会の中で良き市民であるべきという考え方をしていました。 ベネフィット・コーポレーションは、CSR の先を目指す企業形態で、利益と社会貢献の両方を追求する営利企業です。

典型的には、既存企業をベネフィットコーポレーションに転換するには、株主の議決権の2/3以上の同意が必要です。企業のミッションを決め、定款に定め、株主が同意します。経営者が何か判断を下すときには、そのミッションに基づき決定します。株主利益に反する決断をしても、株主から訴訟を起こされることはありません。

一方、日本の公益法人は、税制優遇を受けるための制度です。まず、一般社団法人、一般財団法人、特定非営利活動法人(NPO法人)のいずれかを設立します。これらの法人が、内閣府、都道府県、政令指定都市などから公益認定を受けると、公益社団法人、公益財団法人、認定特定非営利活動法人(認定NPO法人)になります。

株主訴訟を受けずに公益を果たすためのアメリカのベネフィット・コーポレーションと、税制優遇を受けるための日本の公益法人。制度が生まれる基本的な動機が違っているといえるでしょう。

Kickstarter のベネフィット・コーポレーションとしての憲章(https://www.kickstarter.com/charter)には、毎年2.5%の税引き後利益を芸術や音楽へ、同じく2.5%の税引き後利益を不平等への戦いに寄付すると宣言しています。株主の前で、堂々とこういうことができるのがベネフィット・コーポレーションの魅力です。