3Dプリンタの組み立てキットを買いました。仕事が溜まっていて、いま手をつけると、あちこちに迷惑をかけるので、ちょっとの間おあずけです。

何を作るの、と聞かれて、しばし固まりました。うーん。特に作りたいものが思い浮かばない。フィギュアの趣味があるわけでもないし。オリジナルの洗濯ばさみでも作ろうかなと答えたら、もっといいもの作りなよ、と。ごもっともです。

クリエイティブな人にとっては、無限の可能性が広がって、楽しい機械です。でも、多くの人にとっては、面白そうだけど使い道のない機械でしょう。頭の固まってしまった僕はおいておいて、子供に自由に使わせてあげたら、デジタルネイティブならぬ、3Dプリンタネイティブが生まれそうです。好きな形状を思うがままに作れる自由を知った子供は、何を作るのでしょうか。

でも3Dプリンタは、僕たちの生活も大きく変えます。人々の生活を、行動様式を、思考を根底から覆す機械です。3Dスキャナと組み合わせれば、簡単に3次元の形状が複製できるんです。これまで、3次元の形状を複製するというのは、比較的困難な作業でした。その困難さを前提として構築されたセキュリティシステムも数多くあります。

たとえば鍵。複製するには鍵屋に持っていって、専用の機械で複製する必要があります。ハンディタイプの3Dスキャナで10秒ほどで複製用データが作れるようになったら、鍵のありようも変わります。印鑑だって、印鑑そのものや印影から、同じ印影を持つ別の印鑑を作るのは、比較的手間のかかる作業でした。ハンコを押した書類から、誰でも同じ印鑑をつくれるのが当たり前になれば、役所から会社まで、日本全体が依存している契約、認証の仕組みが変わります。さらに精度が向上して、指紋を簡単に複製できるようになれば、犯罪捜査も変わります。

3次元の形状の複製は難しいという前提の上になりたっている仕組みや習慣は、今後3〜10年をかけて、変えていくことになるでしょう。